Moonlight scenery

       "The meditation to the Christmas?" 
 

 


 地球規模で見回せば、地球温暖化への拍車は掛かったままだし、地震もあったし台風も暴れたし、絶滅しそうな生物もいるし。人間の世界にだけと限った不幸や不都合にしてみても、各地での大小様々な紛争はやっぱり収まってないし、大きな事故やら犯罪やらだって後を絶たないし。社会的弱者ばかりが泣くことになるような、そんなものを認めちゃいけないような悪事や悪法も山ほどまかり通ってて。頭よくても器用でも、やってることって情けないばっかなんじゃんか、何が地球上の生態系の覇者なんだか…と。ネットか何かでそういう総評コラムを見たらしい小さな王子様、ぶいぶいと膨れておいでだったのが。そんな彼の間近に仕える人々には、あのね? 何とも擽ったくって、嬉しいことだったりしたの。そういうもんだよと訳知り顔になってしまわれるような、割り切りなんてものが身につくのは、まだまだ先のお話みたいで。一国の王子様なんだから、早く頼もしい大人になって、外交なんかへ立派に立ち働いてほしいという気持ちだって、勿論のこと、あるのだけれど。間違ってるものを間違ってると言ってのけ、何で誰も指摘しないんだとあからさまに憤慨出来るピュアな心、真っ直ぐで素直な気持ちを、いついつまでも持ったままでいてほしくもあるからね。そのままではいられない、通らない世の中だって言うのなら、私たちがいくらでもあなたを傷つけるものからの盾になりましょう、道を開くための鉾になりましょうと、その潔癖さを誇りにしますと思ってやまない人たちだからね? だからどうか、その素直で豊かな感情を心根を、いつまでも大切にして下さいませねと。


  ………いやもう本当に、心からそう思っている方々ではあるんですけれども。


  「だ〜か〜ら。何でお前、こんな簡単なスペルを間違うかな。」
  「いてっ! 何でいちいち本で叩くんだよっ!」
  「幼少のみぎりからのお友達のお住まいを、
   なのになのに何年経っても覚え切らんオツムへ、
   せいぜい頑張って思い出せって意味から、適度な刺激を与えてやっとんじゃ。」
  「む〜〜〜っ。前にナミが言ってたぞ?
   本だって大切な資材だから、そんなして無闇に丸めて傷めちゃいけないって。」
  「そういうことだけは覚えてんのね。」
  「だって大切なことなんだろがよ。」
  「だったら他のものへも応用を利かせなさい。
   何よ、この事典。ページごとにクッキーのかすがびっしり挟まってたわよ?」
  「あやや…。」



  ――― あははのはvv はい。相変わらずのあのお国のお話ですvv








            ◇



 もしかせずとも、怪盗の不法侵入騒動以降、半年もの…ちょこっとの間をご無沙汰していた訳ですが。
「日本ってのも結構おおらかな国みたいですね。」
「そうよね、半年が“ちょこっと”なんですものね。」
 あうう〜〜〜。真っ先にインテリコンビに取っ捕まってしまいましたよう〜〜〜。苛めないで、つつかないでよう〜〜〜。
「いや、そうまで怯まなくても。」
 そですよね、ご無事に、安泰に過ごしていらしたから、わざわざのご報告とか、しなかったまでのことなんだしぃvv 筆者の立ち直りの素早さへと、インテリコンビ、ナミさんサンジさんが呆れておいでなんで、外野の出しゃばりも ほどほどに致しまして。地中海に面した半島と、それを取り巻く幾つもの孤島で構成されてる、小さくて平和でお元気な王国。何かと物騒だったりしている世情も何のその。穏やかな晴れの日が多い、温暖な気候のそのまんま、国民たちも政権担当の方々も、そりゃあほこほこと ゆとりの毎日を勤勉に過ごし。青いお空にいや映える、瑞々しいオレンジの実の弾けるような色合いにも負けないくらい、物のみならず心の充実という意味でも、豊かな実りを積み上げて来ての。そんな1年もそろそろ終わろうかという頃合いになりまして。年度の区切りは別ではあれど、それでもカレンダー上での立派な境目。年を送り迎えするための、様々な行事だって大小いっぱい控えてて。政務担当という肩書じゃあなくたって、誰もがそれなり、お忙しい筈の王宮なんでしょうに、こちらのお二人、何だか微妙にも雰囲気が妙。余裕でおいでなのは、それぞれの責務を…忙しいなりそれでもきっちりと、追い抜かれる事なく処理なさっていてのことでもありましょうが、

  「今年はまだだってのが意外よねぇ。」
  「意外なんて生易しいもんじゃありませんて。」

 おやおや、やっぱり。第二王子の頼もしき“参謀
ブレイン”でもあるお二人さんでしょうに、何だか気にかかることをお抱えのご様子で。彼らの息抜き用の談話室、明るい陽射しの降りそそぐ広々としたサロンにて、少々気鬱なお顔を向かい合わせている隋臣長と秘書官のお二人。二人が両サイドへと着座している、白い天板のテーブルには、めいめいの飲み物だろう白磁のティーカップが2組とそれから、クリアファイルとが広げられてあり。そこには…2本ほどの折り目が浅くついた、便箋らしいものが広げられて収まっている。便箋らしいと言ったのは、様式は確かにそのようなのだが、そこに綴られているものが………解読するのがなかなか大変そうな暗号みたいに見えたからだが。ってことは、それってもしかして。
「去年のリクエストが、お庭へのバスケットゴールと用具一式で。サンジくんたちで即席のチーム作らされてたわよね。」
「しかも、そのお披露目を兼ねたパーティーの後に、風邪引いてしまって。ほら、大変だったじゃないですか。」
「大騒ぎした国王陛下や皇太子殿下を落ち着かせるのが、ね。」
「その前の年は“大きなわんこ”だったから、メリーを贈った訳ですが。」
 今年はまだ? それが意外…ってことは、それってもしかして。
「まあ、何に決めたかってところは、直前に知らされたとしても大丈夫ではあると思うんだけど。」
 間に合わなかったらどうしようという方向での心配は必要ないから、焦れて尻を叩くような真似はしなくてもいいと。頭では、理屈では分かっているのだが。

  「いつもの“げんかいたいせー”がないってのはどうもね。」
  「こんな落ち着けないとはねぇ。」

 あああ、やっぱり“それ”でしたか。
(笑) 皆様にもお届けしたことがある筈の、この王宮の冬の風物詩。クリスマスが近いんだなぁと、皆がしみじみ感じ入るものの一つ。それが、ここ翡翠宮の主人にして、R王国第二王子の“サンタさんへのお手紙を書くぞ週間”の到来で。それを一昨年の今頃に初めて目にした護衛官のゾロが、
『…あいつ、確か今年17だったよな?』
 王族の大人たちの仲間入りを祝う“帯刀式”を春の初めに迎えた年だった筈なのに。なのに、サンタクロースへのプレゼントのリクエストを、お手紙へとしたためていた彼だったのを、そりゃあ驚いていたのだが。そっか、あれからもう2年も経ちますか。………で、それを思い起こさせるようなやりとりをなさってらっさるお二人だってことは。
「来年にはもう、十の位が1つ増えるお年だから。それでもう卒業ってつもりでいるのかもしんないわね。」
「そうですかねぇ。」
 だったらそれこそ、今年が最後だからっていう、何か大きなこと、考えようって構えませんかねぇ。あ、そかそか。そう来るか。さすがね、サンジくんたらもうっ。…な、なにがどう“さすが”なんでしょうか?

  ――― あ・な〜んだ。
       やっぱり王子様のことか、でございますね、うんうん。
(苦笑)

 この国は、その建国時期が結構古いということや、中東地域に接した砂漠を向背へと控えているよな立地状況の割に、宗教へはあんまり厳しい制約もなく。そんなせいもあってかさほど過激な“原理主義”へと偏ってはいない方。とゆ訳で、王室の儀式や風習に、ちょこっと古代のトルコ王朝風のあれこれが見受けられはするものの、行事や儀式へもなかなかにアバウトで。近年に至っては、キリスト教関係の習慣や祝いごと、それらに関与する何やかやも柔軟に取り入れ、広まっている気風があり。バレンタイン・デイだのハロウィンだのクリスマスだのも、市民レベルでの当たり前のイベントとして、話題にしたりパーティーを催したりが行われている。王宮でも…大々的に“国の公式行事”とまで銘打ってはいないながら、各国の駐在大使からのご招待があれば、皇太子殿下が謹んでお受けしているほどだし。個々人の間でも、それがイエス様のお誕生日であるということを理解した上で、親しい皆で集まって楽しむ日としていたりし。殊に、今の王宮で一番小さな存在、第二王子のルフィ殿下には、その無邪気さからいつまでも“サンタさんからの贈り物”がついて回っているらしく。どこまで本気で信じているやら、つい昨年まで、そのリクエストを綴った“お手紙”が書かれていたのだが。………そっか、今年はそれが兆しもないのか。それは確かに…微妙に、心配というか気掛かりにもなりますやねぇ。もう信じてはいないの?と、本人へ今更訊くのも何ですし。信じてはいるけれど、でももう大人なんだしと。リクエストは辞めたってだけなのかも知れないし。それより何より、まだ決めかねてるだけってことだって有り得るし。
「まだちょっと、様子を見てましょうよ。」
「そうですね。」
 まだ少し、日はあるからと。同んなじささやかな気掛かりを抱えていた同士、質
ただすのはまだ早いかと確かめ合ってたこちらのお二人だったのだけれど、

  “…そっか。そういやそうだったよなぁ。”

 おやおや? こちらさんの方は一体何を、そんなにも感に入っておられるものやら。思いもよらなかった何かを知らされて、その衝撃のようなものにしばし固まっておられたようだったのが、何とか我に返られて。大きな肩をかくりと落とすと、そうまでの溜息をついたまま、扉をノックするのも辞めて、元来た方へと後戻り。どうしたんでしょうね? 護衛官さんたら…。







            ◇



 年間を通して温暖な土地柄だとはいえ、一応は北半球の、しかも結構 緯度もある国だから。この時期は冬の初めであり、落葉樹ははらはらと、この1年間を頑張った葉っぱを次々に足元へと落としてもいて。本来は皇太子用の、所謂“東宮”であるところの“翡翠の宮”なため、その瀟洒な建物を取り巻く広大なお庭には、世界各国から集められたる様々な木々が、角ごとに趣向を凝らして植えられてもいる。そんな中、殊に落葉樹の多い辺りに設けられたる四阿
あずまやの、ベンチシート風の腰掛けへ。ぽそりと座を占め、ぼんやりと風景へ視線を向けてる、小さな人影が約一つ。
「………。」
 いくら…王宮内外を問わない広範囲な各方面へのご挨拶から、様々な書類の集中決済とその整理などなどという、年末ならではな慌ただしさに襲われていたとても。王宮としての尊厳とでも言いましょうか、さほどにまで“体裁”を重視するような、偏屈な王宮ではないけれど、それでもそれなりに守りたい“体面”というものが最低限はあったりし。いつ いかなる使節がご挨拶においでかもしれない、アポなしはあり得ないとはいえ、明日にもお伺い致しますという急な取材だってあるやも知れないということで。おもちゃ箱を一気に引っ繰り返したかのような、雑多で大胆な、戦場のような喧噪に撒かれてのお片付けやら混乱ぶりやらを露呈する訳にも行かず。一応はしずしずとした、楚々とした風情での、師走の奔走をなさっておいでの皆様であり。何へか集中していると、自然と別なところでの注意力がどうしても欠けてしまうのは道理というもの。どんな忙しさの中にあっても、そのかたのお世話が優先されるべきな御方が、こんなところでぼんやりしていることにさえ、うっかりと気がつかないままな人々が重なったその結果か、第二王子が供もないまま、お庭の外れでぼんやりなさっておいでだったりし。
「…どうしよう。」
「何がだ。」
 溜息混じりの独り言…だった筈が、それへと実にすばらしいタイミングでの合いの手がかかったもんだから。
「…えっ?」
 ひくりと。小さな肩を撥ねさせて、お返事がした方へとルフィ王子が振り返れば。ドーム状の屋根天井を支えているアーチ型の柱の1本に大きな背中を凭れさせ、こちらを見やって立ってる人がいたりする。
「な…なんでこんなトコに いんだよ。」
 自分の気配をすっかりと隠し切って近づくことが出来る、相変わらずに油断も隙もない、味方につければこれ以上はないくらいに頼もしき護衛官殿。厚みのある胸板へ高々と腕を組み、
「そりゃまた、お言葉だよな。俺の仕事は、お前が危険な目に遭わぬよう、しっかり警護することだぜ?」
「う…。」
「それよか。」
 ちょいと斜めに構えていた、緑の髪の護衛官殿。直々のお言葉への反駁とはまた別の感慨を込めて…少々脱力しながらという感じのお声を重ねて紡いだ。
「どういう驚き方をしたのかは知らんが、窓枠からは降りな。」
 ベンチシートが直に嵌め込まれてあった壁は、背もたれ代わりの高さの壁のすぐ上が、角を丸くした刳り貫きの“窓”状態になって空いている。椅子の部分に腰掛けていた筈の王子様、声をかけられたその途端、ひゃぁあぁっと跳び撥ねたそのまま、座面に飛び上がった勢いのまんま、も一つ上の窓部分の枠へまで乗り上がっていたからで。どこの動物園から逃げ出したお猿でしょうかと言いたくなるよな、しゃがみ込み姿勢だったりもしたもんだから、呆れを通り越して吹き出しそうになった護衛官殿、
「相変わらず身軽だよな、お前。」
「お前って言うな。」
 笑われたこと、敏感に察知し、むいむいと膨れつつも降りかかったルフィ王子だが、
「あ…。」
 幅が狭かったところへ、微妙なバランスで乗り上がりはしたものの、そもそも、きっちりと狙って飛び上がった訳ではなかったことを失念していた。まさに絶妙な様々が働いて何とか留まれていたという案配であったらしくって、そこへあらためての力が加わったことが不味かったらしく、あっと言う間に体のバランスが崩れた王子様。そのまま四阿の外っ側へ、間髪入れずの容赦なく“ぐらり…どさりっ”と転げ落ちたものの。

  「…ふや。////////

 肩も背中も、頭もお尻も。どっこも痛くなかったのは。まだ枯れぬ芝草が青々としていたのと、その上へお見事なタイミングにて、あっと言う間にすべり込んで来てくれた人があったから。丁度 野球の走塁、足からのスライディングのように、そりゃあなめらかに腰を落としながら、長い脚から先に突っ込んで来てくれて。そのお膝へとクッションよく、お尻から受け止めてもらえたその上で、長い腕でも身を確保され、
「どっか痛むか?」
 あんまり優しい声音が降って来たものだから、ん〜んとかぶりを振ったそのまま、向かい合ってたお兄さんの頼もしい懐ろへ、照れ隠し半分に顔を伏せる。まだまだそんなにも寒くはなかったけれど。ちゃんと上着だって薄手のダウンのジャケットを羽織ってはいたんだけれど。しっかりした存在感についついと、ぎゅううってしがみつきたくなった王子様。だってさ、ここ何日かってものはサ、
「ここ何日か、お前何か様子が訝
おかしかったが。」
「………っ☆」
 びくうっと、またまた肩が撥ねたが、今度はしっかとホールドされてたからね。反射的にだって跳び撥ねることは不可能で。冬の制服、長袖のシャツに、今日は珍しくもブルゾンも羽織ってたゾロの、それにしちゃあ大きくファスナーを開けてた懐ろへ、ますますのこと、むいむいと。やわらかい頬っぺを擦りつける。
“…これで来年の5月には20歳だと?”
 いかにも子供の所作が、こうまで違和感のない男の子。実はそんな年齢なんだよんと言われても、どれほどの人が信じるだろか。確か母上は東洋の方のご出身という話だったから、それで幼く見えるのかもなと。鼻先に来ている頭の天辺、ぽさぽさと風に遊ばれてる まとまりの悪い黒髪を、よ〜しよしと撫でて撫でて。

  「もしかして、クリスマスに関係あることか?」
  「………っ☆☆」

 星が2つに増えました。
(笑) もしかして図星だってことでしょか。お父さん、寒いようと言わんばかり、ますますのこと懐ろへと隠れたがってる幼子へ、小さく息をついてから、
「さっきみたくぼんやりしていて、しかもそれを見とがめられると焦って見せるのは、俺にだけって反応みたいだが。」

  ――― はい?

 な、なんか ややこしいことを仰有ってませんか? 護衛官様。確かに挙動不審なルフィだったのでと、心に留め置いていたゾロだったのだが、他の面々が気に留めているものとは明らかに…彼の見せている“状態”が違うことへとハッとした。サンジやナミは、ルフィがサンタへの手紙を書き始めないことを不審に思ってるようで。ってことは、他の面々の前では、例えぼんやり呆けていたとしても、今のようなドギマギというほどもの大仰な反応までは見せていなかった彼であるらしく。
“呆けていても不審には思われないってのも凄いもんだが。”
 いやまあ、そこはあれだ。王子様相手に気配殺して近づく存在つったら、王宮の人間の中には あんたしかいないからではないかと。大概は“ルフィ様にはご機嫌よろしゅう”とか何とか、お声を掛けてからの入室とかになるのだろうし、サンジさんやナミさんの場合でも、宿題は済んだか書類は読んでおいたか、声を掛けながらの接近が普通でしょうからねぇ。例えぼんやりと考え事をしていたとしても、きっちり我にも返れるってもんでしょうし。
「…だってさ。」
 もごもごと。どこか口ごもっての反駁というのも、日頃の彼の…明けっ広げすぎてこっちが心配になるほどという性格からすると、思い切り不審であり。

  “………。”

 お膝へと抱えた小さな温もり。膨れた延長でむずがるみたいに もぞもぞとし、視線を合わせないままで居ながら、だがだが。それにしては…こちらの胸板へ、甘え丸出しでくっついたままでいる小さな王子。
“なあ…。”
 本来だったら、護衛対象の気持ちにまで踏み入るなんて、ガーディアンの心得としてはお門違いも甚
はなはだしいことなのにな。そういう“プロの心得”のそのまた上の、タブーすれすれの一か八か。護衛対象に切りつけて、謀反人となることで彼を本物の暗殺者から守ったのが…もう5年も前のこと。だってのに この子ったら、自分のブレインを総動員して、3年も掛けて、所謂“裏世界”へと潜った護衛官殿をお見事にも捜し当ててしまったし。此処では…少なくともこの王子様に対しては、セオリーは二の次で、彼の気持ちを大切にしてやっての護衛ってものを心掛けねばならないらしいと、重々思い知った出来事でもあったのだけれど。

  “なんで、俺にだけ…怯えて見せるかな。”

 それこそ襲撃にでも遭ったかのように。びくぅっと飛び上がられるたび、何故だかこっちも…ちょっとだけ。そんな態度をされるほど、何でだか警戒されているのかなと、ある意味“返り討ち”に遭っていたものだから。大切な宝物を抱えていたその腕の輪を、ついのこととて…少しばかりぎゅうと縮めていたようで。
「…ゾロ?」
「あ、悪い。」
 苦しかったか? 慌てて緩めれば、髪をぱさぱさ揺すぶって、ん〜んとかぶりを振った王子様。大好きなお兄さんの、頼もしい胸元の質感と精悍な匂いに、こちらからこそ擦り寄って、

  「…あんな? 俺、ずっと考え事しててサ。」

 小さな声なのは、もしかして。彼なりに思い詰めてたことの、恐る恐るの告白なのかも? この国の12月の風は、まだそんなに冷たくもないのだけれど。いつになく勇気を振り絞っているよな感じの強い王子様だと気がついて。砂漠から来た護衛官殿、まるで励ますかのように、長い腕をルフィの小さな肩や背中へとそっと回した。優しい温みは十分に、そんな彼の気持ちを届けたみたいで、
「あんな? 俺…。」
 ちょっぴり緊張して息を呑み、それからおもむろに顔を上げつつ、小さな王子が告げたのは、

  「クリスマスのプレゼント、考えてた。」

 ああそうかと、ゾロの口許がふんわりと持ち上がる。幾らなんでももうお兄さんなのにさ、昨年までのよな大仰なお手紙はなかろうということで、リクエストだけを考えていた彼なのだ。何だ、やっぱりいつものルフィじゃないか。安心半分、でもでも恥ずかしいとか思ってのことなら、その分は大人になったということか。………いやいや。19歳なら、ある意味もう十分に立派な大人なんですが。
(苦笑)
「………サンタへのか?」
 いつまでも無邪気で愛しい子供を胸に抱き、穏やかな声で訊いてみれば。
「??? なんでサンタだ?」
 おやや? 何だか怪訝そうなお声が返って来て。今度はゾロの側が“??? んん?”と眸が点になる。

  「俺が考えてたのは、ゾロへの…プレゼント、だっ。」
  「はい?」

 だからっ。ゾロって11月が誕生日だったっていうじゃんか。俺、ずっとそれ知らなかった。こないだやっとエースから聞くまで、全然知らなかった。そいで、今年のはもう過ぎてて、でも何か、ほんの半月差だったのが むしょーに悔しくてさ。
「半月差?」
「聞いたのが11月のクリスマスだった。」
 ああ、11月の25日だったのね。
(苦笑)
「だからじゃあ、クリスマスに何か贈ろうって思ったんだけど。」
 ゾロって何をもらえば喜ぶのかが判らなくって。お酒と格闘技の鍛練かなって絞れはしたけど。お酒なら特に不自由なく手に入るだろうし、鍛練の方も俺ではまだまだ歯ごたえあるよなレベルには付き合えないし。

   「なあ、何がいい?」
   「別に…。」
   「何でもいいとか要らないとかは無しっ!」
   「贈られる側の意見くらい聞けよ。」
   「だから訊いてんじゃんか。」

 なあなあ何がいい? 切実そうな表情で、大きな琥珀の瞳がじっとこちらを見上げて来ており。ああしまった、これは逃れようがない体勢じゃあないかと、護衛官殿、かつてないほどにピンチの御様子。ここいらなりの初冬の風が、さわさわと常緑の木立を吹き抜けてゆき、小さな王子様の“なあなあ・ねえねえ”という、おねだりの声を運んでゆく。そんな木立の少し先、さりげなくも身をひそめ、可愛らしいやり取りの最中の、主従の様子を伺う人影があったりし。

  「まったく、手のかかる人たちよねぇ。」
  「そうですねぇ。」

 苦笑を見せたお二人さんが呆れたのは、わざとらしくも話題にしたことで、やっとのこと、動いたゾロであることへ。
「ルフィが妙に呆けてたのなんて、あたしたちだって気がついてたっての。」
 だってのに、サンタさんへの手紙まで持ち出したナミさんやサンジさんだった訳で。
「でも、書こうとしてはいなかったのも事実ではありますし。」
「そうよね、嘘はついてない。」
 首尾の見事さへと、うんうんと満足げに頷いて見せてから、
「さて。落ち着いたら、今度は自分へのことにも目を向けるだろうから。」
「やっぱ書きますかね?」
 今年も“げんかいたいせー”発令でしょうかと、苦笑する金髪の隋臣長さんへ、
「そりゃあもう、本人がサンタの実在を信じている限り、有効でしょうよ。」
 大きな瞳を溌剌と瞬かせ、佑筆さんが太鼓判を押し、何だったら今年もプレゼンターはゾロにやらせましょうか? あ、それがいいと意気投合。くすくす笑いも秘やかに、お邪魔虫は退散退散と、お庭から翡翠宮へと戻ってく。今年のクリスマスもまた、小さな波乱がありそうですが、何はともあれ………お幸せなお二人で良かったことvv


  ――― 残る問題は、
       ルフィからの、生まれて初めての誰かへのクリスマスプレゼント。
       もらいそびれた肉親の誰かさんたちが、
       大人げなくの嫉妬に燃えなきゃあいいのですけど♪






  〜Fine〜  05.12.09.


  *押し詰まってきましたねということで。
   何か勢いばかりみたいですいませんです…。

ご感想は こちらへvv**


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